やさしいあなた… (EDGE COMIX)

攻め:水田、元医師の紳士的なヤクザ
受け:春本、中卒のヤクザ

事務所一つを任され、極道の世界に長年身を置く春本と、元勤務医のキャリアを活かして独自のヤクザ道を歩んでいる水田。
同じヤクザながら対極的な性格をした二人はゲイバーで出会う。水田は春本の美しい歌声と屈託のない笑顔に、春本は今まで出会った誰とも違う水田の優しさ、紳士的なふるまいに心惹かれていく。
互いに相手をカタギの人間だと信じて疑わないまま、二人はデートを重ね…というお話。ヤクザ×ヤクザカップルです。

西田先生も、短期間で既刊を全て揃えるほどのめり込んだ作家さんの一人です。
そして、私が西田先生にハマるきっかけになったのがこの作品。
人に勧められて読んで、当時BLといえば受け攻めの体格差があって、受けが攻めに守られるようなかわいこちゃんで、攻めはスパダリのバリタチ、受けはバリネコで…という好みだった私が、その対極にあるような組み合わせの二人にガツンと心揺さぶられた漫画でした。

私が自分のBL漫画の好みが判然としないと言うのは西田先生のせい(?)で、きっと西田先生が描くカップルなら例え苦手な設定や組み合わせだったとしても、何でも好きになっちゃうんだと思います。
それぐらい、西田先生はボーイズラブという枠を超えて漫画力が高いというか、キャラクターの魅せ方、動かし方がとっても巧みだと思います。

この作品に関しては、とにかく受けの春本に魅せられる!
まともな教育を受けておらず、なるべくしてヤクザになった春本。
彼は学歴こそないけど、素頭の良さでヤクザ界を渡り歩いてきたように見える。互いに相手がヤクザだったと知る場面で、水田にわざと自分の顔を傷つけさせるシーンはすごくエロティックで痺れます。
言動ともに粗暴ながら、紳士な水田に憧れたり、自分の正体を知られて水田に嫌われるのが怖いと怯えたり、「インコに似すぎだろ」の純粋さとか、水田目線で読んで、ああ水田は今春本に惹かれているんだとよく分かる。
「一番弱虫で一番強い」って、春本のことだと思うんですよね。

あとはやはり、大人の男同士がいい年して初恋をやっちゃってる感が最高!
行きずりの相手とワンナイトセックスを繰り返してきた二人が、二度デートをして、キスだけで心を震わせている。
互いの正体を知った後でようやく肌を重ね、一気に溺れるように求めあう。この緩急のあるストーリーがいい。

彼の前では本当の自分でいられると夢想することができる。彼と一緒に、本物の恋を演じている。夢も物語も、いつかは終わる。
大人だからこそ終わりを覚悟して芝居じみた恋をしていた二人が、春本が刑務所に入るために別れを告げる終わりのシーンで、本物の、永遠の恋人になる。
切なくて、とびきりロマンティック…!
「いい旅になりますように」と水田の人生を想う春田の表情にジーンときます。
救いと希望のあるラストシーンでよかった!

設定のシリアスさに対して、物語を全体として振り返ると割とチープな恋愛映画のようにまとまっているのがこの漫画の良さだと思うんですよね。カラー扉のあの二人の雰囲気はズルいw

刑務所を出た二人が再会して、水田がピアノを弾き、春本がそれに目配せしながら幸せそうに歌っている図を想像するとちょっと泣けます。
いい旅になりますように。



やさしいあなた… (EDGE COMIX)
西田ヒガシ
茜新社
2017-08-12


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL漫画感想へ