攻め:西澤浩一郎、芙蓉のかつてのクラスメイト。委員長タイプ。
受け:大町芙蓉(ふよう)、実母にネグレクトされて育つ。小6の時から下宿屋を営む祖母の元に身を寄せ、高校を卒業後も家業を手伝う。
「お前なんか産まなければよかった」と母に言われ育った芙蓉は、芙蓉は不要、と、幼いながらに自分の寂しい人生を淡々と受け入れて生きてきた。
クラスメイト達からも孤立する芙蓉に手を差し伸べたのは、大人びた転校生の西澤。
分け隔てなく自分に接してくれる西澤の優しさに、芙蓉はいつしか淡い恋心を抱く。
しかし西澤の母親の計らいで、芙蓉はまともな暮らしを送れない親元を離れ、学生向けの下宿屋を営む祖母の元で暮らすことになった。
芙蓉は初恋の思い出と、西澤に借りたままの植物図鑑を胸に抱いて故郷を離れる。
同級生の再会ラブです。
もう超~可愛くてたまらないんです!優し気なストーリーが、二人の掛け合いが、イラストが、すべてが!
作中に登場する雑草、もとい野花が華やかなアクセントになっています。植物図鑑を片手に読みたくなる本。
連作の短編形式になっていて、無限に読んでいたい。社会人になった二人も見てみたいな~
○すみれびより
大学生になった西澤が昭和レトロな下宿屋「大町館」にやってきて再会する二人。
想いをこらえきれず、という感じで、歩道橋の下、雨の音を背にすみれの花の傍らでキスをするシーンがたまらなく好き!
この作品で、一番この作品「らしさ」が体現されている場面じゃないかな。イラストがないのが残念だと思ったけど、月村先生の文章から浮かび上がる情景が全て、という感じもします。
○あじさいびより
無事想いを通わせた二人。
ひそやかに抱えてきた初恋が実るなど想像もしていなかった芙蓉は、ふとした出来事から、西澤のためにこの関係を人に知られてはいけない、この関係はいっときのものなんだと考えるようになり…という、月村先生の描く受けらしいいじらしさとめんどくささが暴走するターンw
華やかなあじさいの花に『浮気』という花言葉、この悪戯めいた仕掛けが憎いです。
そしてインテリ眼鏡くんながら、芙蓉のことになるとちょっと様子がおかしくなる西澤が面白いw
西澤を煽るために当て馬役を買って出てくれた田上さん(ちゃんと彼女がいる)もナイスです。
○ふようびより
お盆休みに、実家に一緒に来ないかと芙蓉を誘う西澤。自分たちの関係に後ろめたさを感じている芙蓉は戸惑うが、祖母は行きなさい、と芙蓉を後押しする。
この話がもー!泣けました。
芙蓉同様に言葉少なで、想いを伝えることに不器用な祖母が「孫と暮らせる日が来るなんて、思いもしなかった。あんたが生まれてきてくれて、本当によかった」と伝えるシーン。
思いがけない祖母の愛情と優しさに触れた芙蓉が、こみ上げる幸福を涙とともに打ち明ける相手が西澤、というのがとてもいいんですよね。
全身全霊で芙蓉を求める西澤が芙蓉を変えて、芙蓉は自分を必要としてくれる人間がいるのだと思えるようになる。理想のBLです…月村先生はセックスより先にそういう描写をしてくれるのが、本当にいいんですよ。
芙蓉の心配していた通り二人の関係に気づいているかどうかはさておき、西澤のお母さん、絶対自分の息子が芙蓉に恋していることは気付いてますよねw
だって中1の男の子が、かつて同級生だった男の子と同じ名前の芙蓉の木を植えて大切にしているんだものw
そして『息子はいつか自分のもとを去るけど、伴侶はずっと自分のもの』と考えているお母さんなら、案外二人の関係を祝福してくれるんじゃないかなあと思える。
ずーっと西澤との思い出を宝物のように抱いて生きてきた芙蓉と同様、西澤も芙蓉の花を慈しみながら、いつか芙蓉に会えることを心待ちにして生きてきたんですよ。
時を越えて実った初恋の花が、時にしぼんだり休んだりもしながら、いつまでも咲き続けるのがわかる。とても幸せで、可愛らしいお話でした。
あとがきで月村先生も地味な小説と語っていますが、地味さだからこそ沁みる味わい深さがあるじゃないですか…!これはスルメ系のBL小説だと思っています。読み返すたびにほんわかとあたたかな気持ちになる。
西澤が卒業した後のこととか想像するとすごくわくわくするんですよね。
芙蓉はいずれ下宿屋を継ぐだろうし、下宿屋の近くにやはりちょっとレトロな平屋の戸建てを借りて西澤と一緒に暮らして、小さな庭に咲いた花を眺めながらいつまでも仲睦まじく暮らして、地味なおじいちゃん二人になってほしいなあ。